大学生が読んでみたら面白そうな本を紹介するブログ

「読書はきっと人間力を向上させる」と自己暗示を掛けながら読書に励む大学生が、読了書を書評を模して紹介します。

『江戸時代』 大石慎三郎著 中公新書

 

 唐突に江戸時代に興味が湧いたので、「中公なら、まあ、ありっしょ」と内容も特に確認せずにポチり。羅列的に歴史を述べる本かと思いきや、テーマごとに、江戸時代を象徴する制度や文化について解説されている。

 

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 著者の述べる江戸時代の特徴、その大枠二つは、①本当の意味で庶民の歴史が始まった時代であること②250年に渡って内外共に争いが無かったこと である。そんな中で、この本を通読したうえで特に印象に残ったのは、①に挙げられている、本当の意味で庶民(農民)の歴史が始まった、という点である。

 

 江戸時代、ひいては戦国時代には、河川や水路の整備が強く推し進められた。その理由は、物資輸送路としての水路の重要性、新田開発、水災対策など諸々である。

 また、江戸時代には本草学が発展するなど、農業技術も大きく向上した。このような事が相まって起こったことは、農家における、余剰生産物の発生である。それまでは「生かさぬよう殺さぬよう」で年貢を取り立てられていたが、余剰が発生することにより、農民が、それらを売買することで少なからずの富を得られるようになった。その結果として、商業の発展、複雑化、また、米余剰が発生したことによる米価の下落、即ち「米価安の諸色高」が引き起こされたのである。このことは、江戸時代の構築原理である石高制の崩壊を導き得るものであった。

 

 また、江戸時代後期には農民による一揆が頻発したり、年貢徴収において賄賂が動いたりと、政治とは別の部分で、庶民(農民)の生活に主体性とも言えるものが生じていることも見て取れる。

 

 このような点を見ると「本当の意味で庶民の歴史が始まった時代」と著者が江戸時代を位置付けるのも頷ける。また、明治以降の農本主義的な思想にもこの江戸時代からの流れが強く影響を与えているのでは無いかとも感じられた。